バラスト水とは、船舶空荷時に船舶を安定させる目的で「錘(おもり)」として船内に取り入れる海水のこと。船底のバラストタンクに海水を注入することで、船自体の重心を下げたり、バランスを保ちます。載貨重量トン数に対するバラストタンク容量は概ね、コンテナ船で30%、原油タンカーは40%と言われ、国際海事機関(IMO)によると、年間約120億トンのバラスト水が、船によって世界中に運ばれていると推定されています。
バラスト水は、採水した海域とは異なる遠方の海域の港で排出されるため、バラスト水に含まれる水生生物が排出された港付近の生態系に影響を及ぼす被害が、確認されています。海域への生態系を破壊するだけでなく、海産物の減少などにより沿岸国の経済活動への被害を及ぼす例が報告されています。
このバラスト水問題に対して、2004年国際海事機関(IMO)が「バラスト水管理条約」(※1)を採択しました。この条約は、バラスト水中の生物の数を一定数以下に処理(殺滅・除去)する装置の搭載を義務付けるもので、条約が発効した場合、2017年までに既に就航している船を含めた全ての国際航海船舶に搭載義務が発生するものです。
三菱化工機は、この国際問題に対応し、2006年米国NEIトリートメントシステムズ社と技術提携し、バラスト水処理装置『三菱-VOSシステム』(※2)の販売を開始しました。IMOによる決議「バラスト水管理システムの承認に関するガイドライン(G8)」の要求に適合した三菱-VOSシステムは、フィルターを使用せず、殺菌剤などの化学薬品を使用しない、海域の影響を受けにくい、環境に優しいシステムであることが大きな特長です。
腐食環境試験
三菱-VOSシステムは、独自設計の不活性ガス発生装置によって発生された低酸素不活性ガスをバラスト水にベンチュリー管を使って吹き込み、短い時間で水中の酸素を除去し、プランクトンやバクテリアなど、急激な環境変化に対応できない生物を効率的に殺滅させることができる画期的なシステムです。
三菱-VOSシステムは、IMOのガイドラインを満たしているだけではありません。化学薬品を使用しないため、環境への負荷だけでなく、乗組員の薬品取り扱いの負担がなく、また、タンク内を低酸素環境にするためバラストタンクの鋼材の腐食を防ぎ、塗装の劣化を低下させます。これにより、従来発生しているバラストタンクのメンテナンス費用を大幅に削減するため、船のライフサイクルコストを大きく低減することができます。
主要機器であるガス発生装置は、分割搬入が可能なコンパクトな設計、バラストラインから離れた設置が可能であるという点から、新造船のみならず、就航船への搭載も行え、小型船舶から大型船まで幅広い対応が可能です。システムそのものの性能やコストはもちろんのこと、対環境性や安全性、効率性など付加価値をもたせた三菱-VOSシステムが、海洋環境をしっかりと守ります。
また、爆発の危険がある貨物を積むタンカーなどの用途においても、危険場所へは不活性ガスの配管と、本質安全品であるセンサー類のみが設置されるため、設置場所の、換気回数の増減を行わずに設置することができ、可燃物を含む可能性のある危険バラストの逆流、逆送といった事態にも爆発の危険なく対応ができます。
これらの点が評価され、VOSシステムは大型タンカーVLCC6隻や日本からアジア各国へ貨物を運ぶ近海貨物船など国内外の船主様に採用されています。
(バラスト水処理量100m3/hr~6,800m3/hr)
また、本システムは、米国沿岸への寄港船に求められるバラスト水排出基準(IMO基準と同等)について、米国環境保護局(EPA)が定める船舶からの排出基準(VGP)における付属書において、現時点で最も有効な入手しうる方式(BAT)の一つである「脱酸素方式」として、評価を受けています。
【三菱-VOSシステムの特長】
■バラストタンク内の防錆、塗装保護効果、犠牲陽極の消耗量も減少。
■VLCCクラスに対応できる処理容量
■本質安全機器の設置のみで防爆要求に対応可能
■既存の技術である、不活性ガス発生装置の応用
■淡水港、汽水港、海水港で問題なく利用可能
■船舶油清浄機SJで培ったアフターサービス網
※1:「船舶バラスト水及び沈殿物の制御及び管理のための国際条約」(2012年8月時点、未発効)。
※2:VOS(Venturi Oxygen Stripping)。自動車エンジンのキャブレターや霧吹きなどのようにベンチュリー効果(流体の流れを絞ることによって、流速を増加させて、低速部にくらべて低い圧力を発生させる機構)を用いた脱酸素システム。