【水素|ノー炭炭(タンタン)メン本舗プロジェクトストーリー Vol.2】
水素オーブンのお披露目が間近!
実証実験で垣間見た技術者達のものづくりスピリット。
川崎市や地元企業、学生と連携し、商品やサービスの脱炭素化や新規事業の創出だけでなく、環境課題への意識と行動を習慣化させる取り組みでもある「KAWASAKI SOUL」。その第一弾として「水素|ノー炭炭(タンタン)メン本舗」が進行中だ。11月2日に開催される「みんなの川崎祭」で、CO2排出量ゼロである脱炭素ラーメンを提供する。今回は、本プロジェクトの主役となる「水素オーブン」にフィーチャー!
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水素オーブン開発現場に
実証実験の立ち合いへエネルギーを水素に置き換える。それは単純なように聞こえるが、需要と供給のバランスにより天然ガスなど既存燃料に比べると割高、かつ、インフラが整わない背景もあり、水素エネルギー事業に高いハードルを感じている企業が多いのが現状だ。そんななか、学生が発案した“脱炭素ラーメン”というワードに共鳴し、その熱い思いに応えたいと、「みんなの川崎祭」で使用する環境配慮型の水素オーブンを開発し、今回のプロジェクトに携わってくださったのが株式会社中西製作所だ。中西製作所は学校給食や外食産業など業務用厨房機器を取り扱う大手メーカー。2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて何かできないかと模索し、3年前から水素エネルギーを使った調理機器の研究・開発に積極的に取り組んでいる。
※写真は、株式会社中西製作所の伊勢崎市にある群馬工場。
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水素オーブンとは?
水素オーブンとは一体どんなものなのか? また、水素でラーメンはちゃんと茹でられるのか? 実証実験が行われる現場に、われわれ三菱化工機のスタッフも立ち合うこととなり、川崎市を拠点に活動する脱炭素活動団体「まるっとサステナCAMP」のメンバーで、大学でプロダクトデザインを専攻する春宮利音さんとともに、中西製作所の工場がある群馬県伊勢崎市へと赴いた。
※写真は、今回の主役となる水素オーブン。水素を燃焼させて調理する業務用オーブンだ。
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技術的な課題と直面、そして挽回へ
「期待されるサービスのためには、1時間あたり90~100食分を提供したい」。
これは、食品を提供する元祖ニュータンタンメン本舗の広報担当・三浦拓真さんからのオペレーションにおけるリクエストだ。実際に20リットルの寸胴鍋で1度に3玉ずつ、1時間あたり約90~100玉の麺を茹でられるかどうかが成功のカギとなる。
数か月前に先がけて行った実験では、麺は45秒で茹で上がるものの、入れ続けるとどんどん温度が下がり、沸点に戻るまでのリカバリーに約3分かかっていた。麺をおいしく茹でるには、十分に沸騰したお湯で茹でるのが鉄則。これでは1時間あたり約60食分しか提供できないことになる。熱効率をより高め、リカバリー時間を短縮させなければという大きな課題を残していた。さて、今回の実証実験はどんな結果となったのだろうか?
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実証実験の結果は?
水素オーブンに設置された寸胴鍋を30分ほど前から火にかけ、沸騰してきたころに麺を投入。45秒で茹で上がり、温度計をみるとお湯の温度が98℃まで下がっていた。ここから100℃に戻るまで、なんと45秒! 前回約3分だった結果に比べ、リカバリー時間が約1/4にまで短縮しているとは驚きだ。この作業を3回繰り返し、オペレーションの実証実験が終了した。
水素オーブンの設計・開発を担当した中西製作所の片山岳陽さん(写真左)が、「茹で時間とリカバリー時間、実際には十分に沸騰するまでの十数秒や、時々たし湯をする時間も含め、1回転にかかる時間は約2分。この分でいくと1時間あたり約90玉は茹でられそうです」と結果を報告。
立ち合ったスタッフたちも息をのんで実験を見守っていたが、三浦さんのリクエストに応え、結果をぴたりと寄せてきたことには、うれしい驚きとともに、プロの技術者たちの矜持を目の当たりにし、深い感慨を覚えた。
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いざ、実食!茹で加減はいかに?
さて、肝心の麺はおいしく茹で上がっているのだろうか? 実際に、われわれも試食してみることに。
黄色みを帯びた中太麺はつるんと箸で持ち上がり、コシと弾力がしっかりしている。噛むほどに小麦粉の風味と旨味が広がり、麺だけなのに、かなりうまい!
元祖ニュータンタンメン本舗に常日頃通っているという利音さんは、「麺に旨味があって、もちもちとした食感。一口目から、まさにお店の味だと分かりました。茹で加減や食感、風味まで、いつも食べているのと同じです」と、思わずにっこり。水素で茹でた麺は、お店で味わうのと変わらぬ完璧な仕上がりだった。
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試行錯誤の向こう側にみる、
技術者たちの笑顔茹でた後のリカバリー時間が劇的に改良された結果には目を見張るものがある。水素オーブンの設計・開発を担当した中西製作所の片山さんは、その試行錯誤の一端を語ってくださった。
「前回の実証実験では、寸胴鍋にお湯を沸かすにも約2時間かかり、燃焼効率の向上が最大の課題でした。これは放熱ロスが主な原因で、対象の寸胴鍋に20~30%しか熱が使えていない状態だったんです。そこで、放熱ロスを減らすために板金のカバーで炎を囲い、寸胴鍋に炎を集中させるよう設計し、今回はプロパンガスで沸かすのと同等の30~40分に短縮、リカバリー時間も3分だったのが45秒まで縮めることができました」
※写真は左から中西製作所 設計・開発担当の片山岳陽さん、株式会社ヒートエナジーテック営業担当の小関惇さん、開発担当の荒井一之さん。技術者たちの総力により燃焼効率が劇的にアップした!
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水素燃焼の要となるバーナー
片山さんは水素燃焼の要となるのがバーナーだという。バーナー部分と配管は株式会社ヒートエナジーテックが協力・開発に携わってくださっている。
ヒートエナジーテック営業担当の小関惇さんは、「水素に使用する機器はまだ開発段階のため、値段が高く、数も揃わないため、水素オーブンに合うバルブや安全弁を探すのに時間を要しました。新しい商品には需要と供給のバランスの問題がつきものですが、金額面、納期面においての課題も大きいですね」と苦労をにじませ、まだまだ世の中に普及しづらい要因があることを話してくださった。
水素用バーナーの設計を担当した荒井一之さんは、「従来のバーナーは空気とガスをいかに混ぜるかが課題で、うまく混ぜるときれいに燃えてくれるのですが、水素は全く逆で、とにかく燃焼しやすい性質。いかに燃焼を制御するかが課題でした」と、燃料としての水素の性質についても説明。「水素と空気がバーナー部分で混合して燃焼を起こすのですが、火口の形状を工夫したり、そこに至る配管にどういった安全装置をつけるかなど、限られた部品で設計することに試行錯誤しました」と苦労された点についても語っていただいた。
技術面の課題だけでなく、金銭面、納期面などの課題も抱えながら、限られた条件のなかでの苦労話や課題解決について伺っている際、時々見せる、みなさんの晴れやかな笑顔。労力を惜しまないものづくりの精神が伝わってくる瞬間だった。
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技術者たちのEnergyに感謝
実証実験に一緒に立ち合った利音さんが、今回の訪問について感想を語ってくれた。
「僕たちの仲間である一人の学生の発案が、川崎市を飛び出し、いろんな会社を巻き込んで大きなプロジェクトに発展していることに驚いています。実際に工場や実証実験の現場に立ち合い、お話しもうかがいましたが、たくさんの技術者たちがこのプロジェクトに携わり、協力を惜しまず、試行錯誤しながら開発を進めてくださっていることを実感しました。感謝の思いでいっぱいです。
水素の炎で茹でるところを見たときは、なんて革新的だろうと思い、脱炭素社会への可能性を感じました。試食もしましたが、いつもと変わらないお馴染みの味だったのが嬉しかったですね。イベント当日はたくさんの人に「水素|ノー炭炭(タンタン)メン本舗」を知っていただき、体験していただきたいです」
最後に、このプロジェクトに携わっての思いと意気込みを片山さんに伺った。
「今回のプロジェクトは私たちにとって、とてもありがたい機会。イベントで経験を積ませていただくことで、今後よりよい製品となるよう技術的な課題を解決し、いずれは製品として売り出していくことが目標です。水素は燃焼時に水蒸気を発生させるので、おいしさUPにもつながります。脱炭素社会の実現にも貢献できますし、これからが楽しみです。全力で頑張っていきたいと思います」
「KAWASAKI SOUL」の取り組みは、脱炭素化に乗り出す企業にとって、ものづくりの発展や課題解決など、価値のある機会と場になりつつあるようだ。脱炭素化への着実な第一歩。「みんなの川崎祭」での、水素オーブンのお披露目が楽しみだ。
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実際に使う水素は
どこからくるのだろうか?
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製造から調理まで、
水素エネルギーで成り立つ仕組み
特徴的なのは、水素の貯蔵技術である水素吸蔵合金だ。「水素を吸収しやすい金属と、吸収しにくい金属を組み合わせ、吸収しやすさと放出しやすさの両方を兼ね備えた合金を使用し、水素の状態変化を利用します。気体である水素を冷やしながら固体に吸蔵することで、タンクに高密度の状態で充填でき、イベント会場へコンパクトに運ぶことができます」(今村)
三菱化工機の大川町にある工場で、小型オンサイト水素製造装置「HyGeia」を使って製造した水素を、水素吸蔵合金タンクに充填・運搬、加温することで固体から気体へと水素を放出させ、供給・使用することができるのだ。
イベント会場では、水素を燃料電池と水素オーブンそれぞれに配管でつないで供給。水素オーブンで麺を茹で、燃料電池を使ったホットプレートでスープの温めを行う。
※写真は水素オーブンとMHタンク
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プレス向け説明会で
各団体の代表者から概要を発信左から川崎市シティプロモーション推進室の都築直也さん、元祖ニュータンタンメン本舗広報担当の三浦拓真さん、三菱化工機常務執行役員イノベーション推進担当の林安秀、まるっとサステナCAMPの田中悠太さん、三菱化工機水素・エネルギープロジェクト部の今村圭吾。脱炭素ラーメンをいただくポーズで。
プレス向け説明会後、イベント当日に向けてのミーティングがプレスの方々にも公開で行われた。
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おいしく“脱炭素”と出会える
「水素|ノー炭炭(タンタン)メン本舗」
当日提供されるメニューは「まぜタン」1,100円(予価・税込)と、川崎市内の保育園で提供している辛くない「こどもタンタンメン」800円(予価・税込、100食限定、先着順)をこの日限りの特別アレンジで用意。収益金の一部は、川崎市内の子ども食堂などの中間支援団体「特定非営利活動法人かわさきこども食堂ネットワーク」を通じて、市内の子ども食堂などに寄附する予定だ。
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当日限定のオリジナルノベルティも
制作中!製造から調理まで、ほぼ水素エネルギーでつくられる脱炭素ラーメンのことを、このイベントをきっかけに広く知ってもらいたいと、注文された方にはオリジナルのステッカーや缶バッチづくり体験がセットで付いてくる。
缶バッチにもあるロゴはよくみると、あの四角い渦巻模様が「H2」にデザインされているなど細部にも注目を。また缶バッチの色は、炭色のほか、川崎市のブランドイメージを表す赤・緑・青の三原色からも好きな色を選べるとのこと。
官民学が一体となり、脱炭素化を目指したものづくりの精神と、熱いEnergyが詰まった「水素|ノー炭炭(タンタン)メン本舗」との出合いを、ぜひ楽しみにしていただきたい。
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三菱化工機ニュース(プレスリリース情報)
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川崎市・報道発表資料
報道発表資料(川崎のソウルフード「元祖ニュータンタンメン本舗」を脱炭素化!「水素|ノー炭炭(タンタン)メン本舗」が11月2日「みんなの川崎祭」で限定オープン)
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元祖ニュータンタンメン本舗
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まるっとサステナキャンプ
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株式会社中西製作所
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株式会社ヒートエナジーテック
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那須電機鉄工株式会社
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日本フイルコン株式会社